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神戸地方裁判所 平成2年(行ウ)14号 判決

原告

勝村雄司

右訴訟代理人弁護士

高橋敬

小沢秀造

被告

兵庫県警察本部長 滝藤浩二

右訴訟代理人弁護士

俵正市

右訴訟復代理人弁護士

寺内則雄

被告指定代理人

汐田敏博

武田泰幸

宮田数馬

嶋村薫

鎌倉良哲

松田保

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点一について

1  原告は、被告が原告の地公法二八条一項一号及び三号該当事由を理由にして本件処分を行ったものであるが、その理由とするところのほとんどは存在しない事実(事実無根)や歪曲された事実(事実歪曲)に基づいており、仮にその一部が事実であるとしても古くて些細な取るに足りない事由であって、原告の警察官としての不適格性を表すものではなく、また、原告の勤務実績は不良ではなく、したがって、本件処分は分限免職事由に欠けるものであって違法であると主張しているので、判断する。

2(一)  そもそも、「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする」(警察法(以下「法」という。)二条一項)。そして、都道府県警察において警視正以上の階級にある警察官を除く警察官は地方公務員である(法五五条、五六条参照)から、警察官は、「その職務を遂行するに当って、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない」(地公法三二条)のみならず、特に「警察官は、上官の指揮監督を受け、警察の事務を執行する」(法六三条)と定められている。

他方、都道府県警察の職員のうち、警視総監、警察本部長及び方面本部長以外の警規正以上の階級にある警察官を除く職員については、警視総監又は警察本部長がそれぞれ都道府県公安委員会の意見を聞いて、任免する権限を有するところ(法五五条一項、三項)、右任命権者は、法律に特別の定がある場合を除く外、地方公務員法並びに同法に基づく条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規定に従い、右職員の免職及び懲戒等を行う権限を有している(地公法六条一項)。

したがって、本件では、被告が、原告の分限免職を行う権限を有することになる(地公法二八条一項)。

(二)  ところで、地公法二八条所定の分限制度は、公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的から同条に定めるような処分権限を任命権者に認めるとともに他方、公務員の身分保障の見地からその処分権限を発動しうる場合を限定したものである。

そして、同法二八条一項三号に定める「その職に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因してその職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうものと解されるが、この意味における適格性の有無は、当該職員の外部にあらわれた行動、態度に徴してこれを判断するほかはない。

その場合、個々の行為、態度につき、その態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連付けてこれを評価すべく、さちに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素をも考慮する必要があり、これら諸般の要素を総合的に検討した上、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連においてこれを判断しなければならないのである。そして、分限処分が免職である場合には、公務員としての地位を失うという重大な結果になる点において大きな差異があることを考えれば、免職の場合における適格性の有無の判断については、特に厳密、慎重であることが要求されるものと解される。

3  〔証拠略〕によれば、次の事実を認定することができる。

(一)  原告の経歴

原告は、昭和三九年三月に兵庫県立夢野台高等学校を卒業して、いったん民間会社に勤務したが、昭和四〇年二月一日付けで兵庫県警察官(巡査)に任命されて兵庫県警察学校に入校し、昭和四一年一月に同校を卒業して神戸水上警察署勤務となった。その後(原告は、灘警察署、特別機動隊、兵庫警察署、有馬警察署、生田警察署及び明石警察署にそれぞれ勤務したが、その間、特別機動隊勤務時を除いて大半は派出所勤務であった。

(二)  けん銃のたま紛失

原告は、兵庫警察署在勤中の昭和四八年六月二七日、同署けん銃庫前において、貸与されたけん銃及びたま五発を受け取ったが、右たまを内規で定められたようにズボンの右側のポケットに納めず、原告が着装した帯革左前とズボンベルトとの間に並べてはさみ込んだまま神戸市兵庫区所在の菊水西派出所へ就勤したため、その間にたま五発を紛失した。

右紛失行為により、原告は、被告から、同年七月三〇日付けで、地公法二九条一項一号並びに職員の懲戒の手続及び効果に関する条例三条により、減給一〇〇分の一、一か月の懲戒処分を受けた。

(三)  けん銃損傷

原告は、兵庫警察署中道派出所在勤中の昭和四九年一〇月三〇日、指令を受けて神戸市兵庫区水木通三丁目所在のマンションに急行したところ、同マンション管理人室のドアの隙間等から蒸気様の気体が吹き出しているのを発見したので、同室内に入ろうとして付近にあった物干し竿様のものでガラス戸を突くなどしたがガラス戸が破れなかったので、やむを得ず原告が携帯していたけん銃を右手に持ちガラス戸を二、三回強打したところ、ガラスは破れたが、その際、右けん銃の銃口付近にも多数の擦過跡を付けることとなった。

原告は、右現場を去る際、けん銃についた擦過跡に気づいたが、けん銃を損傷した場合に内規て要求されているけん銃の管理責任者である兵庫警察署長への報告を怠ったのみならず、昭和五一年一月一六日付けで、同警察署長に対して、けん銃射撃訓練中に誤って手をすべらせて右けん銃を足元のコンクリート床に激しく落下させてしまったためけん銃を損傷した旨の虚偽の報告書を提出した(〔証拠略〕)。

原告は、同年二月二一日付けで、兵庫警察署長に対して、この件についての始末書を提出した(〔証拠略〕)が、右始末書には、「今後は進んで上司の指示を受けると共にこのような場合には直ちに報告致します」旨が記載されていた。

(四)  無承認車両による通勤

原告は、有馬警察署在勤中の昭和五一年四月一九日、遅く起床したため、通常の通勤交通手段である神戸電鉄を利用したのでは遅刻するものと考え、承認を受けずに原告所有の普通乗用自動車を使用して出勤した。

原告は、右同日付けで、有馬警察署長に対して、この件についての理由書を提出した(〔証拠略〕)が、右理由書には、「今後は充分に注意すると共に、進んで、幹部の指揮下に入ることを肝に命じ、実績の高揚に努めます」旨が記載されていた。

(五)  遅刻

原告は、生田警察署在勤中の昭和五三年九月二九日、勤務時刻に約一時間三〇分遅れて出勤した。

原告は、右同日付けで、生田警察署長に対して、この件についての始末書を提出した(〔証拠略〕)が、右始末書には、「このことは、かねて有働課長から二回指示を受けていたところでありますが、今回これを守れなかったことは深く反省しています。今後は充分に注意をするとともに勤務に精励します」旨が記載されていた。

(六)  鍵放置

原告は、生田警察署在勤中の昭和五三年一〇月二五日午前八時ころ、同署城ヶ口派出所において警戒勤務中、同署警ら課から、もめごとがあるので現場へ向かうよう指令を受け、直ちに現場へ向かったが、その際、同派出所備付けのけん銃保管箱の鍵を同派出所休憩室内の机上に置いたまま外出した。

原告は、右同日付けで、生田警察署長に対して、この件についての始末書を提出した(〔証拠略〕)が、右始末書には、「かねて上司から適正な鍵の保管について教養を受けていました…今後は十分注意して二度と指摘を受けることのないように努力します」旨が記載されていた。

(七)  けん銃取扱不適

原告は、生田警察署在勤中の昭和五五年三月二〇日午後七時四〇分ころ、同署栄町派出所において警戒勤務中、けん銃の装着された帯革を外して同派出所休憩室のベッドの上に置いたまま同派出所公かいで書類を整理していたところを折から指導巡視中の兵庫県警察本部(以下「県警本部」という。)警ら部警ら指導課の松田警部補から注意を受けた。

原告は、右同日付けで、生田警察署長に対して、この件についての始末書を提出した(〔証拠略〕)が、右始末書には、「すでに上司からけん銃の保管についてはくり返し指導・教養を受けているところでありますが…今後は充分に注意をいたします」旨が記載されていた。

(八)  怠勤

原告は、生田警察署在勤中の昭和五八年八月一二日、午前四時から同五時まで同署下山手派出所からの警ら勤務に当たるべきところ、県警本部警ら課の浜田警部補が同派出所に指導巡視で立ち寄った同日午前四時三〇分ころ、休憩室で雑誌を読んでいた。原告は、浜田警部補から注意を受けて、直ちに警らに出た。

(九)  遅刻

原告は、明石警察署魚住派出所在勤中の昭和五九年四月六日、勤務時刻に一時間遅れて出勤した。

(一〇)  被害届改ざん

原告は、明石警察署船上派出所在勤中の昭和六〇年五月一三日午前一一時ころ、明石市大久保町に居住する岩本某から同月九日付けで提出されて翌一〇日に同署で正式に受理されたオートバイ盗難の被害届を、その内容が不正確であり又はその書き方が悪い等の理由で、赤色ボールペンで、×印をつけたり、斜線を引いて書き替えるなどして、改ざんした。

(一一)  けん銃取扱不適

原告は、明石警察署在勤中の昭和六〇年一一月七日午後六時一五分ころ、一般人も利用できる同署食堂で、原告から離れたテーブル上にけん銃が装着された帯革を身体から外して置いたまま夕食を取っていたところ、上司から指摘を受けた。

原告は、右同日付けで、明石警察署長に対して、この件についての理由書を提出した(〔証拠略〕)が、右理由書には、「今後は、けん銃や無線機の取扱いに充分注意致します」旨が記載されていた。

(一二)  玉津警察署における暴行

原告は、昭和六〇年一二月一五日夕方、勤務を終えて原告所有の普通乗用車を運転して帰宅途中、その進路を逆行して来た自動車二台にからまれて停車させられた上、右自動車に乗車していた酒井誠(以下「酒井」という。)ほか数名から原告所有の普通乗用車を損壊された。その後、原告は、原告の受けた被害を申告するために玉津警察署に赴いたが、同署一階公かいにおいて、同署署員と会話をしていた同日午後八時一〇分ころ、偶然、他の同署署員に付き添われてその場を通りかかった酒井を認めるや激昂し、右平手で酒井の左頬を思い切り殴った。

4(一)  右で認定した事実によると、原告は、警察官として二〇年余り勤務していたが、その間、人を殺傷する道具であることから念には念を入れた管理が必要なけん銃及びそのたまの管理が全く杜撰であったり、公共の安全と秩序の維持に当たる警察官としては勤務時間を守ることが必須であるのに遅刻や怠勤を繰り返したり、あるいは、窃盗の被害者から出された公用文書である被害届を勝手に赤ボールペンで毀損したのみならず、勤務時間外であるとはいえ、自己の車両に毀損を加えた加害者に対して腹が立ったという理由で警察署内でいきなり思い切り殴りつけており、市民に対して暴行した者を厳しく取り締まるべき立場にある警察官のみならず一般人としてもとうてい許されない行為をしている。

加えて、原告は、右で認定した規律違反等の行為後に幾度も理由書や始末書等を提出しており、その中で、かねて、上司から注意を受けていたのにその注意を守らなかったことを深く反省し、今後は十分に注意して二度と指摘を受けることのないよう努力することなどを何度も誓っているにもかかわらず、規律違反等の行為を繰り返していた。

また、右で認定した始末書等以外にも上司に対して誓約書や始末書等を提出したことは、〔証拠略〕からも明らかである。ところで、原告は、これらの始末書等は上司に何回も直されて書いたものであって、必ずしもその内容が真実とは限らない、と主張している。しかし、これらの始末書等を原告が自ら書いて上司に提出したのは原告も認めるところであって、このことは、原告の日頃の勤務態度に何らかの問題があったことを如実に示しているものといわなければならない。

(二)  右で認定した原告の外部にあらわれた行動、態度につき、その性質、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして相互に有機的に関連付けてこれらを厳密、慎重に評価すると、原告は、勤務状況がやや怠慢で節度に欠け、上司の再三にわたる注意や指示にも従わず、私的憤懣にかられたとはいえ、警察官に付き添われた状況にある加害者に対していきなり暴力を振るう者であって、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、公共の安全と秩序の維持に当たることを責務とする警察職員としては看過することのできない欠点を有するものといわざるをえない。

そして、右の欠点は、原告の年齢、素質、性格、能力等から考えて容易に矯正を期待できないものと思料され、これらの各事情を総合勘案すれば、右で認定した事実以外で被告が主張している原告のその余の不適格性を示す事実の存否及び原告の勤務成績の内容について判断するまでもなく、原告は警察官に必要な適格性を欠き、警察官として任用し続けることは相当ではないと判断されても已むを得ないものといわなければならない。

したがって、原告には地公法二八条一項三号所定の分限免職事由が認められ、本件処分は分限免職事由に欠けるものであって違法であるとする原告の主張を採用することはできない。

二  争点2について

1  原告は、本件処分が原告に十分な弁明の機会を与えずになされたもので正当な手続に基づくものとはいえず違法であると主張しているので、判断する。

2  兵庫県警察官の分限に関する手続は、地公法、職員の分限並びに分限に関する手続及び効果に関する条例(昭和三五年兵庫県条例第五二号)、職員の分限及び懲戒の手続及び効果に関する規則(昭和三五年兵庫県人事委員会規則第一六号)及び兵庫県警察職員の分限及び懲戒の取扱いに関する規程(昭和四〇年一一月二〇日本部訓令第二七号、以下「規程」という。)に定められている。

3  〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(一)  明石警察署長は、昭和六一年一月二七日、当時明石警察署員であった原告について分限手続に付する必要があると認め、被告に対し、分限の申立てをした(規程三条)。

(二)  被告は、右申立てを受けて、必要な事前調査を行ったところ、分限処分を必要とすると認めたことから、同年一一月四日、兵庫県警察職員分限審査委員会(以下「委員会」という。)に審査の要求をした(規程一八条一項、一一条)。

(三)  委員会の委員長(以下「委員長」という。)は、右審査要求を受け、翌五日、分限を申し立てられた職員である原告に対し、明石警察署長を通じて、右審査要求があった旨を審査通知書(〔証拠略〕)により通知した(規程一八条二項)。

(四)  原告は、右同日、右審査通知書を受け取り、同月一〇日、規程一九条一項ただし書きに基づいて口頭審査を要求する旨を明石警察署長を通じて回答した(規程一八条三項)。

(五)  委員長は、原告の口頭審査の要求の申し出を受け、同月一二日、明石警察署長を通じて原告に対し、審査の期日及び場所を口頭審査通知書(〔証拠略〕)により通知した(規程二一条一項)。

右通知書には、「証人の呼出しを要求し、または証拠資料を提出しようとするときは、所属長を通じて昭和六一年二月一七日…までに委員長に対し、書面で申し出てください。」と付記されていた(規程二一条三項)が、原告からは右同日までに証人の呼出し要求及び証拠資料の提出のいずれもなかった。

(六)  同月二〇日、原告も出席して委員会の口頭審査が開催された(規程一九条)が、原告は、その場で弁明をするように求められて、持参していた弁明書(〔証拠略〕)を読み上げただけで、それ以外に弁明することがなかったため、口頭審査は終了した。

(七)  その後、引き続いて委員会が開催され、委員会は、原告について分限の理由とされた個々の事案ごとに検討した結果、全員一致で免職相当の答申をすることを決定して、閉会した。

(八)  委員会は、翌二一日、被告に対して、原告について免職相当の答申をした。

(九)  被告は、右答申を受けて、翌二二日、原告を分限免職とすることを決定し、同日、処分書(〔証拠略〕)及び処分説明書(〔証拠略〕)を明石警察署長を通じ原告に交付して本件処分を行った(規程二一条一項)。

4  右で認定した事実からすると、本件処分に係る手続は、分限免職について定めた地公法や規程等の法令に従って適法になされたことが認められる。

この点、原告は、本件処分は原告に十分な弁明の機会を与えずになされたものであると主張しているが、右で認定したとおり、原告は、委員会の口頭審査に出席した上で、当日持参した弁明書を読み上げたほかは何ら弁明しておらず、また、証人の呼出しを要求したり、証拠資料を提出する機会を右口頭審査に先立って与えられていたにもかかわらず、右要求や提出をしなかったものである。そうすると、本件処分は原告に十分な弁明の機会を与えずになされたものと認めることはできない。

したがって、本件処分の手続面に違法があるとする原告の主張も採用することはできない。

第四 結論

以上のとおりであって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 下村眞美 溝口稚佳子)

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